クリエイター訪問

売りたいのは茨城というブランド <日升庵> 野堀 真哉 

筑波山麓に登山客が気軽に立ち寄れる「おせんべいカフェ」がある。作物を育てるには太陽(日)が、それを売るためには計り(升)が必要という想いからついた名前が日升庵(にっしょうあん)。趣きある店構えにはどういう思い入れと仕掛けがあるのだろうか。オーナーの野堀真哉(のぼりしんや)さんに開店までのいきさつを聞いてみた。

筑波山の紅葉と夕日に一目ぼれ

野堀さんが自分の店をつくって、こだわりの商品を売ろうと決めたことには家電業界で販売員をしていた頃の記憶が影響している。

「国内メーカーは海外メーカーの模倣や後発が多く、作り手の意思を伝えたくなるような商品が少ないんです」

そこで日本文化とともに海外に紹介できるようなものとして、日本の伝統食である煎餅に注目する。古民家風の店内でお茶やコーヒーを楽しめるおせんべいカフェ。斬新なイメージこそ出来上がったが、場所は未定だった。そんな折、柏からつくばの実家に戻り、近所をぶらぶら歩いたとき、都心では味わえない豊かな自然環境がここにあると気づかされた。


筑波山麓に位置する現在の物件との出会いは偶然だったが「ちょうど秋の紅葉シーズンで、赤く染まった楓と竹の美しさ、沈みゆく夕日を見て、やるならここしかないと決めました」と決断に迷いはなかった。それからわずか3ヶ月、目が回るようなスピード作業で日升庵をオープンさせた。昭和レトロが溢れる内装はほぼ手作り。夕日を望むカウンター席への思い入れは一際深い。

受験失敗をきっかけに7回転職

つくば市に生まれ、両親ともに教員という家庭環境で育った野堀さんだが、その歩みはあるときからファンキーな疾走に変わっている。

高校生活の最後の年、自由登校となった1月以降は都内にアパートを借り、大学受験に備えていた。ところが結果は軒並み不合格。予定ではそのまま浪人するところを、受験失敗のモヤモヤからフリーターとなりビアガーデンで働きはじめた。そこでの実績を買われて今度はバーの仕事に就き、さらに懇意になった人の紹介で居酒屋に勤務と飲食畑を3件渡り歩く。「焼酎ブームに乗った地域活性化を計画して、鹿児島にも行きましたが、資金面で折り合いがつかなくなっちゃって。悔しいから鹿児島から東京まで自転車で帰ってきました」と若き日の荒行を懐かしんだ。

正社員として就職したのは22歳のとき。IT企業の面接を受けて採用され、SEO関連の職務に就く。ようやく地に足が着いたかと思いきや、パソコンと向き合い続ける仕事が性に合わず退職。その後は建設会社、保険会社と人伝いに職をつなぎながら、現場の糧を次々に吸収していった。

全国トップの販売記録を樹立

通算7回目となる転職先に選んだのは家電業界。野堀さんはメーカー派遣の販売員として大手家電量販店の売り場に立った。「売ろうとしなくても、特になにも考えなくても、よく売れましたね」と当時を思い返して胸を張る。人との距離のとり方、まわりの人の使い方などこれまでの経験則を総動員した結果、全国1位の販売記録を樹立。業界のトップセールスマンとして群を抜く存在になり、販売アドバイザーとして全国各地に指導に赴くようにもなった。

「研修会等の実施で販売実績の底上げにもつながり、この仕事に関してはやり切ったという感じでした」との理由で次に進むことを決意。経営への向学心から、慶應大学の通信課程を受験して合格。三十路直前の29歳。十分過ぎるほどの社会経験を積んだのち、晴れて学生という身分を手に入れた。ただ、日升庵のオープン以降は現実の経営の方が忙しくなったため、卒業の可能性はゼロに等しいという。

商品が広告となって人を呼ぶ

「つくばは時代に合った観光がまだできていないんですよ。よそを見ればいいアイディアはたくさんあるので、お店をモデルケースに実験と実践を重ねていければと考えています」

開店前のリサーチでつくばではあまり見当たらなかったという煎餅店だが、となりの常総市には驚くほどたくさんあって面を食らった。普通に売っていても面白くないので、お客さんが自分で煎餅を焼けるサービスをはじめる。商品だけではなく、また来たいと思えるような体験を売ることが大切だと力説する。

「茨城県民はPRが下手だと言われる一方、(商品づくりへの)こだわりが強い人は意外と多くて。いつか食べもので『茨城』というブランドをつくってみたいです」そして「商品を出すというのは広告を出すのと同じことなので、看板になるような商品をブランド化して、それを目当てに人を呼び寄せます」と語る野堀さんの視線は新時代の一角に刺さっている。

野堀 真哉(のぼり しんや)

茨城県つくば市出身
1984年1月5日生まれ

日升庵(にっしょうあん)

〒300-4352 茨城県つくば市筑波1221-3
【営業時間】 10:00‐18:00 金曜定休
【TEL】 029-875-8821
【URL】 http://nisyouan.com/

工藤 由行

工藤 由行

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こだわらないことがこだわりのライター&コンテンツエディター&TSUKURI-BACO編集担当。札幌市出身、仙台市経由、筑波サーキットに流れ着いてから20年以上。バイクレーサー→システムエンジニア→ピン芸人→タロット占い師→今ココ。ピン芸人時代と占い師時代に養われた、間とリズムのつくり方、言葉の引き出し術が今の仕事に役立っている。現在はコンテンツ制作とECコンサルがメイン。平面的な構成は得意だが、空間が苦手というか意味がわからないレベル。ソウル国際マラソン、シンガポール国際マラソン完走。おいしいレタスチャーハンの研究とゴルフでわざと遠回りすることで余暇を埋めつつ、新しい趣味を探査中。

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